イーサリアムの共同創業者であるヴィタリック・ブテリン氏によると、イーサリアムはすでに量子コンピューティング攻撃の影響を緩和するための「十分な態勢」を整えているという。

3月9日の 投稿 でブテリン氏は、量子コンピュータが利用可能になり、ハッカーがその技術を使用して資金を奪うことができる「量子緊急事態」が発生した際の状況を考察した。

ブテリン氏によると「実際、私たちはそのような状況に対処するためのリカバリー・ハードフォークを提供できる」という。「ブロックチェーンはハードフォークを行い、ユーザーは新しいウォレットソフトウェアをダウンロードする必要があるが、ほとんどのユーザーは資金を失わないだろう」と主張した。

ブテリン氏が提案するハードフォークでは、イーサリアムネットワークで「大規模な盗難」が発生した場合、それ以降の全てのブロックを「ロールバック(巻き戻し)」し、トランザクションを無効にする作業を行う実施することになる。ロールバック後、イーサリアムの開発者たちはスマートコントラクトウォレットからのトランザクションを許可する新しい取引方式を追加するという。

このようなハードフォークを実装するためのインフラは「理論上すぐに構築を開始できる」とも付け加えた。

イーサリアムを量子攻撃から守るため、ハードフォークの可能性を提案=ヴィタリック・ブテリン氏 image 0 Buterin’s breakdown of the EIP required to prevent a quantum-related exploit on Ethereum. Source: Ethereum Research

ユーザーがイーサリアムウォレットからトランザクションを行う際、署名を通じて公開鍵が明らかになり誰でも把握できるが、現在の仮想通貨のセキュリティでは、公開鍵からは秘密鍵が復号化できないことが前提となっている。しかし量子コンピュータは、その計算能力によって公開鍵から秘密鍵を復号化してしまう可能性が指摘されている。

一方で現在、量子耐性のあるEIPである新しいトランザクション方式について、ウィンターニッツ(Winternitz)署名「STARKs」として知られるゼロ知識証明技術を活用し、既存のウォレットを新しい検証コードに切り替えられるようにする開発が進んでいる。今回のブテリン氏による提案は、この量子耐性を持つ開発よりも前に量子コンピュータが普及した場合の話だ。

イーサリアムを量子攻撃から守るため、ハードフォークの可能性を提案=ヴィタリック・ブテリン氏 image 1 An anonymous user shared an illustrated diagram of Buterin’s theoretical EIP. Source: Ethereum Research

この検証コードによってERC-4337(アカウント抽象化)を活用し、将来のトランザクションの署名時に秘密鍵が表示されないようにすることで、これらのアカウントを量子攻撃から保護する。

ブテリン氏によれば、イーサリアムウォレットからトランザクションを承認したことがないユーザーのウォレットアドレスは量子攻撃にさらされることがないとして、「すでに安全だ」と強調した。

量子コンピュータの出現は、仮想通貨業界にとって長い間恐れられてきた転換点だ。ブロックチェーンの暗号化を破る能力を持つコンピュータが開発されれば、安全に保存されているユーザーの資金が大量かつ迅速に盗まれる可能性があるためだ。

しかし、ほとんどのコンピュータ科学者や開発者は、量子コンピュータはまだ実現には程遠いと考えており、グーグルやIBMのエンジニアは、量子コンピュータが十分に発展するのは早くても2029年以降だと 予想している 。